電柱島(でんちゅうじま)
はじめての場所に戸惑っていた犬たちも、
この町で、ゆっくりと
“いつもの自分”を思い出していきます。

電柱島は、
犬の国の左の羽のあたりにある町です。
和のたたずまいが残る町並みを、
風がやさしく通り抜けていきます。
耳をすませば、
楽しそうな声が聞こえてきて、
どこからか、
ごちそうのいい匂いが流れてきます。
きっと、
あの子もその中にいます。
ふと、足取りが軽くなります。
ほんの少し、
気持ちまで軽くなっていきます。

犬たちは、
ここで少しずつ
新しい暮らしに慣れていきます。
急がなくても大丈夫。
この町では、
時間もやさしく流れています。
朝の静かな時間、
この町を見守るおもらし神社へ
お散歩にやってきます。

石段をのぼりながら、
胸の中にあった気持ちが、
少しずつ、
ほどけていきます。
楽しかったこと。
さみしかったこと。
伝えきれなかったありがとう。
ここでは、そんな想いも
そっと受け止めてもらえます。
町の奥へ進むと、
かつて山城として
ひっそりとそびえていた
シメジ城が見えてきます。

当時の姿のまま復元され、
いまは電柱島駅として使われています。
犬たちはここから、
いろいろな町へ出かけていきます。
今日はどこへ行こうか。
だれに会いに行こうか。
そう考えるだけで、
しっぽが少し揺れてしまうような場所です。
にぎやかな通りに出ると、
そこが、ごちそう街道です。
思わず足が止まるのは、
どこからか、懐かしい匂いがしてくるから。
生きていたころに好きだったもの。
一度は食べてみたかったもの。
そんなごちそうが、
ここにはたくさん並んでいます。
毎年、桜の季節に、
電柱島では、
さくらまつりが開かれます。

町はやわらかな色に包まれて、
犬たちは空を見上げながら、
楽しそうに過ごしています。
ふわりと舞う光の中で、
ふと、
大好きな人と見上げた桜の景色を
思い出すような、
穏やかな時間が流れています。
はじめて見る景色に
少しだけ戸惑っていた犬たちも、
この町で、いつもの歩き方を
思い出していきます。
この町のどこかで、
犬たちはきっと、
穏やかな時間のなかにいます。
